タイトルロゴ大山祐史の経営コラム

  2007年3月19日


 <本日のツボ306>
    『常識ミスマッチ』

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<ツボの説明>

  タイで日系企業の工場長を務めるS氏からメールを頂きました。

     <S氏 Wrote>
 > 最近の日本の風潮は製造業者にとって怖いものですね。
 > 物を作って売るのが怖くなってきました。
 > 特に昔あったガス事故などは使用者の不注意によるもので、
 > メ−カ−の問題というのは頷けません。
 > 開放型の器具を換気もせずに使用すれば、中毒起こすのは
 > だれでもわかりそうなものです。
 > このままでは練炭火鉢を作っているメ−カ−も、訴えられる
 > かもしれないですね。
 > 何か、USAのような告訴社会になりつつあると思いますが、
 > どうでしょうか?

  ガス器具(開放型給湯器)の不完全燃焼による死亡事故の統計が
 公表され、メーカーの対応が問題視されていることについて、S氏
 はメーカー側の視点で「怖さ」を訴えています。

  以下に、私がS氏に送った返信を紹介します。私信ですので一般
 に公開するには不適切と感じられる表現が書かれていますが、配信
 を希望する読者の方にのみお読みいただくメールマガジン上の記事だ
 ということを言い訳にして、そのまま載せてしまいます。
  S氏に対して「脅かし」的に警告を伝えようという意図がある
 ため、少々乱暴な表現を採っています。
  表現が気に触った方には大変申し訳ありません。あらかじめ
 おわび申し上げます。

   〜 以下、大山からの返信 〜

 『開放型の瞬間湯沸かし器は安くて便利だよね。
 でも、「開放型」だけに、換気をしないで長時間使えば死人が出る。
  部屋の中の酸素濃度が下がってくると、燃料のガスが完全に燃え
 尽きるのに必要な酸素が足りなくなって、排気ガスの中にCO
 (一酸化炭素)が混ざるようになる。本来酸素がタップリあれば、
 燃料中の炭素分は十分に酸化されてCO2になるはずなのに、この
 場合は酸素が半分欠けちゃうんだ。
  これを「不完全燃焼」という。

  血液の中で酸素を運ぶ働きをしているヘモグロビンは、一酸化
 炭素とも結合して運んでしまう。というか、ヘモグロビンがCOと
 結びつく強さは、酸素のそれと比べて300倍も強いなどと言われ
 ていて、一旦くっつくと簡単には離れないんだ。よって、一酸化
 炭素中毒は死亡率が高い。
  火災現場などから助け出された人が、救急車や病院で酸素吸入を
 受けても助からない例が多いのは、血液中のヘモグロビンがほとん
 どCOとくっついてしまっていて、酸素吸入してもなかなか正常
 には戻らないからだ。

  こんなにこわい一酸化炭素だが、意外と簡単に発生する。
 ガスは気体燃料なので空気と混ぜるのが容易だから、あらかじめ
 十分な空気と混合してから火をつけることで、比較的簡単に完全
 燃焼させることができる。

  液体燃料でも、燃料を十分に気化させてやれれば空気とよく
 混ざるようになるので、完全燃焼は可能。しかし、気化が不十分
 だと、あっさり不完全燃焼を起こす。
  着火したばかりの石油ストーブなんかは結構大量のCOを
 出しているんだ。

  固体燃料はもっとひどくて、ほとんど空気と混ざらない状態で
 燃焼するからCOは常時大量に出る。
  薪炭燃料が燃える仕組みは、燃料が熱で分解されてガス化し、
 それが空気と混ざって燃えているわけなんだが、気体や液体みたい
 に燃料をあらかじめ空気と十分触れ合える状態にしてやるのが
 むずかしい(なにしろ固体だから)ので、基本的にいつも不完全
 燃焼している部分が残る。
  練炭なんかはもともと不完全燃焼して燃えるのが前提で、わざと
 硬くしてバラケないようにしてあるくらいだ。バラケないから空気
 が不足して良く燃えない。よって火持ちが良くなるというわけ。
  火鉢や七輪なんてのはCO発生装置なのよ。だから自殺には効果
 的なのでよく使われてしまう。

  だけど、こんなはなし、「誰でも知っている常識」とはいえない
 んですよね。「女性でも子供でも、この程度のことは知ってなけりゃ
 死んでもしょうがない」とはいえないわけ。
  たとえば自分の家族が、瞬間湯沸し器でお風呂を満たそうとして
 死んじゃった時「無知だったのだからしょうがない」と思えるか?
 ってこと。

  製造業者はおっしゃるとおり大変ではあるけれど、「世の中利口
 者ばかりじゃない」という事実を前提として、少なくとも大怪我
 したり死んじゃったりすることがないくらいの「ポカよけ」の仕掛
 けは絶対に考えとかなきゃいけないんだよ。

  リンナイやパロマの件もそうだけど「業界の常識」と「社会の
 常識」がずれちまったときと言うのは、本当に怖いし危ないよね。

  メーカーの立場として「そんなのあたりめーだろ」と感じたとき
 には要注意。
  どっちがずれて行ったのかはともかくとして、自社の常識と社会
 の常識との間にギャップができ始めた兆しだからだ。
  これを放っておくと、ガス器具メーカーみたいな目に遭うかもよ。』

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 アドバンマネジ経営コラム by 大山祐史


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