タイトルロゴ大山祐史の経営コラム

 


 <本日のツボ114>
   『海外生産にみる制度的品質問題』

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<ツボの説明>

  海外、特にコストダウンを目的としたアジア諸国への生産委託
 を行なうとき、必ず直面するのが品質問題です。

  「サンプルでは問題なかったのに、量産品が入荷したら不良の
 混入率が高くて困った」とか「細かい不具合だが日本の品質管理
 基準ではNGなので出荷しないように指示したが、徹底されない」
 といった問題が多く発生します。


  こういった問題をよく起こす工場には、ある特長あります。

  それは「出来高給制度」を採用しているということです。

  出来高給制度とは、製造現場の労働者の賃金を「1個いくら」
 で決めているということです。


  工場管理者の立場からすると、作業遂行能力が低い労働者に賃
 金を払いすぎることがないことや、製造数量と直接労務費が完全
 にリンクするため原価管理がしやすい、といったメリットがある
 ため、労働集約的な生産工場ではよく採用されています。

  労働者の側にとっても、「頑張ればそれだけ賃金がアップする」
 「自分がこなした加工数量と賃金が比例している」というわかり
 やすさから、比較的問題なく受け入れられているようです。

  しかし、生産委託した先でおこる様々な品質問題を分析してみ
 ると、この賃金制度にはある弱点があるということがわかります。


  出来高制度というものを平たく言うと、次の工程にいくつ品物
 を渡したかで賃金が決まる、ということです。

  この「いくつ」という概念の中に品質確保という条件を織り込
 むことがむずかしいのです。

  だれがやっても同じようにできる「単純組立作業」のような工
 程であればそれほど問題なく運用できる仕組みなのですが、作業
 者の技術水準によって出来栄えに差ができるような技能的工程で
 は次のような点が問題となります。


  労働者はひとつでも多く次工程に流すことを最優先しますから、
 工程内品質管理の水準はどうしても甘くなります。

  たとえば、「シールを貼る」という工程を考えてみてください。

  日本向け製品の場合、端からXミリのところに貼ること とか、
 傾かないように真っすぐに貼ること といった品質管理基準が示
 されている場合が多いのですが、これを厳密に守ろうとすると、
 作業速度が極端に遅くなり、労働者が生活に必要な賃金を得られ
 ないといったことが現実に起こりえます。

  そのような場合現場の労働者は、自分の作業に対して、自分の
 生活が悪化しない水準にまで作業速度を上げることができる品質
 管理基準を適用し始めます。


  工程間に出来高とは無関係な賃金を得ている品質検査員を配置
 している場合でも、不良をたくさん発見して差し戻した場合には、
 自分の賃金が上がるわけではないのに職場での人間関係は確実に
 悪化するという理由により、あまり効果は上がらない傾向にあります。


  また、作業者が経験を積んで習熟度が上がってゆく過程におい
 ても、習熟によって加工精度が上がり品質水準が向上することが
 作業者本人の利益に結びつかないため、品質向上に効果がある習
 熟の仕方よりも、なにしろ手早くこなすことを重視した習熟の仕
 方がより選好されることになります。

  熟練労働者の品質に対するモティベーションが上がらないとい
 うことです。


  現場の賃金制度と労働者の心理状態がこのようになっている場
 合、いくら工場経営者や技術スタッフと品質水準に関する打ち合
 わせを繰り返しても、なかなか効果が出ないことになります。

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 アドバンマネジ経営コラム by 大山祐史


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