タイトルロゴ大山祐史の経営コラム

 


   <本日のツボ245>
    『安くつくるということ』

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<ツボの説明>

  基本的に「価格訴求」という戦略は、中小企業の戦略としては
 うまく使いこなせないものであると考えています。

  価格訴求を前面に掲げてビジネスをしてゆくと、どうしても
 具体的な戦術としては「安売り」「値引き」ということになるの
 ですが、この「安売り」値引き」による競争はきりがないからです。

  「どこよりも安くします」とか「他店の方が1円でも安かったら
 お申し出下さい。差額分値引きします」といったやり方は衝撃的で
 顧客を呼び込む力はありますが、この方法を競合する複数の会社が
 同時にやり始めたらどういうことになるか?

  どちらかがギブアップするまで、無限の値下げ競争に陥ります。

  そうなるとこの競争は単なる体力勝負ということになり、相対
 的に経営資源の量(特に資金量)が大きい方が有利です。

  いうまでもなく、中小企業は相対的な経営資源の量は少ないで
 すから、価格訴求という戦略はマッチしないのです。


  ここまでは原則論ですが、そうは言っても世の中には安ければ
 安いほど喜ばれ、受け入れられてゆくというものがたくさん存在
 しますし、安いものを求めるという消費者心理も普遍的なものです。

  その業界の相場が「これにこんなに払うのはバカ馬鹿しいなー」
 と感じられるくらい高値で形成されている場合、「価格訴求」を
 前面に出すことでその会社が急成長することがあります。

  あまり良い例じゃないかもしれませんが、耐震偽装問題でつぶ
 れた「ヒューザー」なんかはこのパターン。

  「都会のマンションの相場価格はどう考えても高すぎる」という
 消費者心理を的確にとらえ、面積あたりの販売単価を大幅に引き
 下げたことによって、急成長を成し遂げました。

  価格引下げの原資を建築コスト削減に求めたのも、きわめて
 あたりまえの方策だと思います。ただ、問題だったのは、もはや
 皆さんがご存知の通り、コストを叩きにたたいて調達したものの
 品質管理があまりにも杜撰だったということです。



  衣類乾燥機という商品があります。これの相場価格が6〜8万円
 くらいしていたとき、あるところで2万円の衣類乾燥機が発売され
 ました。当然中国製だったわけですが、あまりにも大きい価格差に
 おどろいて、私の会社で購入して分解してみたことがあります。
 安さの秘密を探ろうとしたわけです。

  結果は、まあ様々な箇所で材料を削減する工夫がなされていま
 したが、一番印象に残ったのは、軸受けにフェルトが使われていた
 ことです。

  軸受けというのは乾燥機の回転ドラムの回転軸を固定している
 部分のことで、一番力がかかる部分です。大きな力を受けとめな
 がら、さらにスムーズに回転させるという機能が求められます。
 日本のメーカーなら、というか物づくりにたずさわる者の常識と
 して、軸受けにはベアリングかメタルを使います。どちらも耐久性
 と低摩擦の両立を考えた部品です。

  ところが、その低価格乾燥機にはフェルトが使われていた。この
 「軸受けにフェルト」というのは、電器メーカーの技術者でも想像
 がつかないくらいわかりにくい事態です。でも、事実使われていた
 のです。


  そのとき我々が下した結論は、「よくて1年。下手をすると2〜
 3ヶ月でぶっこわれる。こんな商品に手を出したら会社がおかしく
 なる」というものでした。

  なにしろ価格が衝撃的でしたので、これを買った人はいると思
 われます。そのうちかなりの割合が、いまごろはもうゴミになって
 いることでしょう。資源の浪費・環境破壊もいいところです。


  価格訴求というものは、消費者に対する訴求能力が高いです。
 うまくやれば注目され、成長の原動力にもなる。

  条件は、その業界の世間相場が高止まりしていて、「そんな値段
 で満足ですか?」という訴えが市場の共感を得られることと、商品
 調達の際に、既存品を上回る水準での品質管理が行えること。

  この2つの条件がそろわない限り、価格訴求には手を染めない
 ことをおすすめします。

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 アドバンマネジ経営コラム by 大山祐史


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