<本日のツボ304>
『良いアドヴァイスの功罪』
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<ツボの説明>
従業員の能力開発プログラムの一環として、キャリア設計という
概念があります。
経営幹部を育成するという目的のために最適な職歴のパスを、
理論的に構築して当てはめてゆこうという考え方です。
しかしこの場合も、相手が「人」である以上、機械的な当てはめ
を行えばよいというものではなく、個人ごとの特性に配慮した当て
はめが必要となります。
その適切な「あてはめ」を行なうためのアセスメントの過程では
対象となる個人に対して個別に接触することになるのですが、これ
がなかなか難しい。
通常、一定以上の規模を持った企業の場合、対象者全員を私一人
で見ることは不可能なので、その企業内の担当者と分担することに
なります。
人事部の管理職にその役目をしていただくことが多いのですが、
事前にすり合わせを行なっても、なかなかうまくゆかないのです。
アセスメントの最大の目的は、一言でいえば「適性の評価」です。
そのためには、各個人の価値観や嗜好、意欲面や能力面の特徴を
注意深く引き出す必要があります。
ところがこういうものは、本人が100%自覚しているとは限らない。
自己申告がすべてではないのです。かといって第三者評価をベー
スにしていたのでは、個人の能力を最大限に活かすためのキャリア
プランは作れません。
そこで必要になってくるのが、本人による「気付き」です。
「あ、俺はこういうことがやりたかったんだ」とか「俺にはこう
いう能力があって、それをああいうふうに使ったときにうまく
いったんだ」というようなことを、本人が自覚する。そこから、
「だから俺は、こういう経験をして成長してゆきたい」という思い
が生まれてくれば、このアセスメントは成功なのです。
ところがですね、大抵の場合、聞き手の方が誘導してしまうの
ですね。
「こうなりたい」という気持ちに気付かせるための質問をして
しまいがちなのです。「なるほど、それでは貴方の最大の強みは
お客さんと仲良くなれる能力っていうことですね?」などと。
へたすると「そういう強みをもっと活かすためには、どうすれば
良いと思いますか?」などというベタな質問になってしまったり。
人事マネージャーがアセスメントを行なう場合、どうしても自身
が考える適正配置に「あてはめ」を行いたいという想いが、無意識
に出てしまうのかもしれません。
聞く方には全く悪気はなく、むしろ善意を持っており、話を
しながら、自分の価値観に基づいて「良いアドヴァイス」をして
あげようとするのです。
こういう会話から「気付き」を得ることはなかなかできません。
本来「気付き」とはもっと自発的なものだからです。より自発的
なものでない限り「気付き」とは言えないのです。
「なにかしてあげたい」「良い気付きをさせてあげたい」「う
まく導いてあげたい」、このような善意が、本来の気付きを妨げて
しまうところに難しさがあります。
聞き手側は何の恣意も持たずに、ただできるだけたくさん話して
もらい、できるだけたくさん考えてもらう。それをしっかりと聞く。
こういうことがキッチリできると、良いアセスメントができます。
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アドバンマネジ経営コラム by 大山祐史
本コラムの内容は、大山祐史によるものであることを明記する
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