タイトルロゴ大山祐史の経営コラム

  2006年6月22日


 <本日のツボ134>
   『市場の多様性』

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<ツボの説明>

  アメリカ産牛肉がまた輸入されることになるようです。

  厚生労働省・農林水産省の役人の仕事振りはあいかわらずで、
 判断材料とされている視察報告書などは黒塗りのまま内容は明ら
 かにされず、なにしろ「白か黒か(輸入再開か禁止か)」の視点
 だけで決着をはかるつもりのようです。


  このような騒ぎがビジネスの世界にいるものにとって滑稽極ま
 りなく見えるのはなぜでしょうか?

  それは「マーケティングの思想が無視されているから」に他なりません。


  我々ビジネスマンは、「良い・悪い」よりも先に「売れるか売
 れないか」を気にします。結果的に「良いものしか売れない」と
 いったことも、経験的に身にしみついています。

  だから、どのような判断でも「市場(消費者)の視点」を考慮に
 入れた上で下されることとなります。そして、その「市場」とか「消費
 者」というものをどのように区分するかとか、どのように定義するか
 といったことが思考上のポイントになっています。


  一方、役人たちのやることにはマーケティングの思想が感じられ
 ません。一体誰のために働いているのかが見えない。

  時折、「国民の安全を確保するため」といった言葉はきかれる
 ものの、それはとってつけたような説得力の無い言い訳に聞こえ
 てしまいます。


  どうしてこんなに空々しいのか?

  「国民」といものの現実をよくよく考えてみればわかるのです
 が、全員ひとまとめにして「国民とはこういうものだ」といえる
 ものがない、いわば実体が無い言葉だから、「国民のため」とい
 う言葉には重みが無いのです。

  とくに厚生労働省の場合、「国民のため」の実際の意味が「医
 師会のため」や「製薬会社のため」とか「天下り先組織のため」
 や「地方議員のため」であったという実例が非常に多くて、本当
 に悲惨なことになっています。


  アメリカ産牛肉に関して言えば、「早く吉野家の牛丼を毎日食
 べたい」という消費者もいれば、「輸入再開されても自分の意志
 でアメリカ産は食べない」という人もいます。

  どちらも健全な考えだと思います。

  生産者側にも「日本人なんぞには何を食べさせてもいい。バレ
 なければ何が混入したってかまわない」という考えのものもいる
 だろうし、「自分たちの商品の安全性を証明するためには、自腹
 で全頭検査を行ないたい」と主張するものもいます(この主張は
 アメリカの「法律で禁止」されているので実現していませんが)。

  こういう状況で「絶対の安全」など保証できるはずが無いこと
 は明らかです。


  それなのに「100%安全を保証できなければ輸入再開できな
 い」という呪縛に陥ってしまっているのですね。

  だから黒塗りの資料しか出せなくても、100%安全であるか
 のように装うしかなくなってしまっている。市場や消費者の多様
 性や自己責任を伴う選択の自由は無視されているのです。


  ビジネス上のマーケティング活動においても、似たような状況
 に陥ることがあります。マーケットをできるだけ大きなひとくく
 りと捉えると、細かい配慮が不要になって楽になるケースがあり
 ます。こういうときは、自分がマーケットの定義付けを正しく行
 なったかどうかをもう一度考え直してみましょう。

  たとえば、「ケーキ屋のお客はだれもが甘さ控えめで軽い食感
 のケーキを求めている」と定義付けること。

  また「石油ストーブを365日つけっぱなしで使う人はいない」
 と決め付けること(私、これで痛い目に遭ったことがあります)。


  マーケットの多様性を無視すると落とし穴が待ち構えているこ
 とが多いものです。

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 アドバンマネジ経営コラム by 大山祐史


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